女っ気なし
遭難者

 繊細にして味わい深いタッチが本国フランスで高く評価され、次代を担うホープとして熱い注目を集めるギヨーム・ブラック監督(1977年〜)。誰もが心に抱く小さな期待、不安や希望を、爽やかな詩情とともに描きだし、見る者を魅了する。初春に必見の2作だ。(2作品で1プログラムです。)
○遭難者 Le Naufrage フランス北部、海辺の小さな街オルト。地元の青年シルヴァンは、自転車がパンクし立ち往生している旅人を手助けするが、事態は以外な方向に……。25分。
○女っ気なし Un Monde sans Femmes 前作『遭難者』からひき続き、張り合いのない日々を送っているシルヴァン。彼の住むオルトに、夏の終わり、パリから素敵な母娘がヴァカンスにやってきた! 買い物に、海水浴にと2人を案内するシルヴァン。3人は、なんだかいい雰囲気になってくるのだが……。58分。



バカンスヘようこそ!
『女っ気なし』『遭難者』

スタッフ(H:平野勇治、N:仁藤由美)
N 名古屋シネマテークって、夏休みの習慣が無いですよね……
H オレにいうなって!
N 休暇のイメージが曖昧という話で、皮肉じゃないですよ。ホントのことだけど。
 錆び朽ちる一方の夏休みの記憶と映画で見るバカンスで構築されてきた、油断を欠いた印象というものは、この『女っ気なし』で、一変しました。素晴しかったです。
 場所があって、人がいて、ただ感情がさすらってる。時計に追われる日常から解放され時の感覚が淡く虚ろになったとしても、そこには一瞬一瞬のなまめかしい艶やかさがあって。いつか風化する侘びまでもがとらえられたかのように、主人公のビーサンから聴こえてくるペッタペッタしたかすかな足音が、まだ残響していることを感じます。
H 『女っ気なし』と『遭難者』の主人公のシルヴァン(ヴァンサン・マケーニュ)は、地図で見るとパリからさほど遠くないイギリス海峡を望むオルトという街に住んでいるんだけど、バカンスの映画っていうと、そこへ「行く」映画を見てきたのに、これは「やって来られる」側の映画なんだ。エリック・ロメールやジャック・ロジエの作品とはまた違って、ギヨーム・ブラック監督は主人公の視点を、ほかのバカンスの映画から逆転しているのが、とても面白いところだと思う。
N 『遭難者』で、パリから日帰りで峠攻めに来たサイクリストのリュック(ジュリアン・リュカ)とシルヴァンの出会い! ひと気のない農道でリュックの自転車がパンク。そこへシルヴァンのクルマが停まる。ありふれたプジョーのメタリック塗装が不穏に青光りしていて、やけに肌の白い男が下りてくる。連続殺人鬼が獲物を発見、の気配すら感じさせるほど行く側とやって来られる側には障壁がありますね。
 来られる側の映画が、時間尺60分に満たない小粒感ながら、今、より輝いてみえるとしたら、それは何なのだと思います?
H ロメールやロジエの「バカンスへ行く」映画に合った貴族的な感覚〜それはヌーヴェルヴァーグの作家主義と通じるものだと思うけど〜は、ここには感じられない。変化のとぼしい日常を生きる、ごく普通の人々の心の中に入り込んでいくところがいいのでは。
N 『遭難者』では、さびれたリゾートでシルヴァンと出会う洗練された都会の人リュックが、時間もろともオルトの街に惑わされます。コンビニも何も無い、早々と眠ってしまったような深夜、シルヴァンの家に偶然たどりつく。そのとき窓枠越しのシルヴァンはカップのヨーグルトの、よりによってフタを舐めている瞬間を覗かれて。そんな人にリュックは助けを求めるわけだ。
H そして、やけに旨そうなリゾットだかショートパスタだか何だかを食べさせてもらい、瓶ビールを呑みながらシルヴァンと夜を過ごす。呑みながらの夜更けの会話が、また!
 「赤ん坊というのは、母親が過去に愛した男に少しは似るものだと思う」って、そんなこと、よく考えるよ。
 「長くつきあうと、時々、自分の彼女を恥だと感じるときがある。」「顔も変で」「声も大きくて」。これも女性には聞かせられない話だね。人間の孤独や、孤独が生む妄想の恐ろしさを覗いたように考えさせられてしまった。
N 互いの警戒をほどく、いい呑みのシーンにもかかわらず(笑)。「白痴」のムイシュキン公爵のようなシルヴァンは、向かい合う相手の原石のかたちをうつし出す鏡だけど、同時にシルヴァン自身の澱みも溶けてきて。きゅん!! としました。
H プロローグである『遭難者』に続いて『女っ気なし』では、夏、シルヴァンが管理する海沿いの貸部屋に、同世代に見えなくもない母と娘がパリ郊外からやってくる。バカンスを楽しむ気分の母親を丘の上の古い城のような建物へ案内するけど、中には入れない。入れない建物へ観光案内する、っていうのもシルヴァンらしい。そこですることもない二人が眼下の街を背景に何となく話し始める。『遭難者』でもそうだけど、高台で男女が佇んだり、座ったりしているシーンは、彼らの心情がグワッと出てくるところで見逃せません。見逃せないと言えば、シルヴァンの家の冷蔵庫に貼られているブリューゲルの「バベルの塔」のカードも、気になるね。絵の寓意を考えると、シルヴァンの一面が垣間見える気がする。やはり人の心の中を見つめる恐い映画なのかもしれないな。




2014
1/25(土)
〜1/31(金)

13:00
18:40

2/1(土)
〜2/7(金)

10:30



前売券
※前売券販売は1/24(金)までです。
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
シニア 1000円
中高予 1200円
会 員 1300円


オフィシャルサイト

『女っ気なし』
監督・脚本・プロデューサー ギヨーム・ブラック
撮影・音楽 トム・アラリ
音響 エマニュエル・ボナ
助監督 ギレーム・アメラン
衣装 ドリーヌ・ブラン
編集 ダミアン・マイストラジ
共同脚本 エレーヌ・リュオー
製作指揮 マリアンヌ・ニコル
プロデューサー マヤ・アファー、ステファン・ドゥムスティエ、ニコラ・ノノン
共同製作 エマニュエル・ミシャカ
出演  ヴァンサン・マケーニュ、 ロール・カラミー、 コンスタンス・ルソー、 ロラン・パポ  他

2011年 58分