●nas/タイム・イズ・イルマティック Time Is ill Matic 90年代初頭から最高のリリシストとしてHIPHOPシーンを牽引するNas(ナズ)。NYクイーンズブリッジ出身。中学を中退しプラチナ・ディスク獲得の伝説のデビューアルバム「illmatic」に至る少年時代は、ブロックパーティの街がクラックビジネスで豹変した、オールドスクールHIPHOPのラディカルなゴールデンエイジに重なる。Nasと共に青春を駆け抜ける緊張感みなぎる傑作ドキュメンタリー。ジャズ・ブルースの名演奏家の父オル・ダラ、ファレル・ウィリアムス、Q-Tipほか大物プロデューサーも多数出演。74分。 オフィシャルサイト
監督 One9 『nas/タイム・イズ・イルマティック』 公開記念対談 今池にいる、マティック! ゲスト(50音順) 青山祐司さん (青山クリーニング店主 写真右) ノリダ・ファンキー・シビレサスさん (nobodyknows+ 写真中) 森田 裕さん (TOKUZO店主 写真左) 11/1公開の『nas/タイム・イズ・イルマティック』は1994年にリリースされたHipHopのレジェンダリー・アルバム「illmatic」が世に出るまでのNas(ナズ)の半生を取材したドキュメンタリーです。映画には出身地ニューヨーク、クイーンズブリッジを背景とするNasの青春がライヴシーンと共に凝縮されています。 当館の地元、今池はもともと異文化が馴染みやすい街であり、ライヴハウスやスタジオ、中古レコード店が点在する独特のアンダーグラウンド文化と切り離せません。本文は「今池まつり」の名で愛される地域独自の祝祭を運営する商店街からブラックミュージックのスペシャリストをお迎えした映画の予習、HipHop文化「入り口編」です。油断禁物の今池/ヒップホップ対談をお楽しみください。(仁藤) 森田 「illmatic」発売から20年。僕は30代で、〈スナック ニュー今池〉を経営していて、そこで何回聴いたことか。青山君はNasと同じ20代。ノリ君は10代かな? ノリ 中学生でした。HipHopを聴き始めたばかりの頃で。 森田 盛り上がっちゃう年頃だ。 ノリ そうですね。で、専門誌の情報は、スヌープ・ドギー・ドッグや西海岸のギャングスタ・ラップが主流。その中でNasのデビューは、ニューヨーク勢、いよいよか! という衝撃と期待が強かった。 森田 デビューにもかかわらず、あらかじめクラシック殿堂入りを確信されるとか、その空前の前評判が日本にも届いた。青山君は1994年当時、カリフォルニアに住んでたんだよね。 青山 ウエッサイ(西海岸ラップ=west side)全盛の中にいた僕は、その時のNasの印象が薄くて。聴けば、どれもシングル盤で出せそうな名曲ばかりなのに。今回、映画を見る前も、「オレはこの映画は、駄目かも」って……思ってたんだけど。 ノリ Nasはデビュー前からファット・ジョーたちに囲まれた挨拶状映像が出廻ったし、映画にも出てくるラージ・プロフェッサー、DJプレミア、Q-Tipと、参加プロデューサーもアブラののった東の大物揃い。 森田 ニューヨークの威信がかかったアルバムだから悪いわけがない。確か1995年頃に来日して、僕は大阪へ聴きに行きました。白いTシャツ着て、ただひたすらストイックにラップして、カッコよかったなぁ。ところで、Nasはリリック(詩)の定評が高いよね。他にもいいヤツはいっぱいいるのに。 ノリ 一発でわかる巧さは、ありますね。 森田 僕は当時、言葉をよく判らずに聴いていたんだけど、トラックのビートやリズムのサウンドから、「illmatic」は、すごく内省的な印象を受けた。 青山 内へ内へと言葉を構成する感じ。西のリリックは衝動的で、言い方を変えれば、やっちまえの煽り。だから西海岸のノリで、Nasはナルいとも、どこかで感じてました。 森田 青山君は、ロス暴動(1992年)やサンフランシスコ大地震(1989年)も身近で体験したんだよね。僕はそもそも、ギャング的な「気にくわなきゃ、刺す撃つ殺す」という感覚がまったく理解できなかった。同様に、暴動を起こす衝動も。自分の生きている環境では解らない、人種差別や社会的格差への憎しみを理解したいと思いながらブラックミュージックを聴いて、ブラックムーヴィをみてきたところがあって。 ノリ 語弊はありますが、東日本大震災のときには、そういう距離の感じ方がありました。現地へ行ってみなければ絶対に解らないことがあるはずだと。 森田 そう。現地にいないと、ラッパーたちが刑務所上がりだとか、服役中なのに新譜をリリースって、これ一体どうなってんの? と思ってしまう。 青山 住んでいたオークランドは港湾工業地帯で黒人労働者が多く居住していました。隣接するサンフランシスコとは異なる文化圏で、過激な政治集団ブラック・パンサー党も輩出しています。だからNasが育ったゲットー化したプロジェクト(公営住宅)に違和感がなかったです。 森田 未知の世界ではなかったわけだ。 青山 映画にも出てきますが、様々な事情で家庭に保護者がいなくなった子どもたちは、その地域の頼りになる親代わりの人々と自然に結びついていきます。たとえそれがギャングでも、面倒をみてくれるのなら、子どもにとってはギャング生活も遊びのひとつみたいなもの。どこか純粋といえるほど、シンプルな物の考え方の人々が多かった。他の世界にもいるけど、そこに、反社会的な人、人のシンプルさを利用しようとする人、ギャングスタ・ラップより、ギャングの方がてっとり早いと考える人もいて。むろん彼らには彼らの現実があって、僕個人のリアリティとは違うんだろうけど。 森田 ギャング・ファッションで、間違われて撃たれた邦人の事件があったよね。 青山 僕も発砲されてます。実際に。 ノリ、森田 え! 青山 暗い街で、パーカーのフードをかぶると、見分けがつかない。クルマから引きずり下ろされたことも。でもギャングだけじゃなく、警官だって同様の誤認をします。だからこの映画の面白さは、地域が共有していたタフな少年時代よりもむしろ、Nasが自分で身につけていく知性と芸術のセンス、思考の深さだと思う。森田さんがいうように、内省的なサウンドは、ゲットーに生きる内面の、音楽のリアリティなんだと。だから、Nasなんだって。 ノリ ライム(押韻)が伝わってきます。Nasのラップの巧さは一番だと思いますね。出演している弟が(笑)、同じラッパーで結構いい盤も一枚出しているんだけど、兄とまったく雰囲気が逆。環境に馴染んだまま。 青山 弟。アイツなー(笑) 森田 「illmatic」が出た頃って、80年代の各地域のパーティ・ラップが成長し、充実した時期で、毎週シングル盤を買わないと乗り遅れるぞと思わせる位、サウンドが変化した。自由にレコーディングできる、程の良い空気も感じられて。全米のビッグ・ビジネスになる直前だったんだと思う。ウエッサイでのNas評価はどうだった? 青山 発売当時は、東のラップを流してクルマを走らせること自体が危険な行為となりえるほど、東西対立の意識は強くて、聴けるムードではなかったですね。 ノリ 映画に出てくるブロンクスのブギー・ダウン・プロダクションズとクイーンズのMCシャンの、音楽ルーツの争奪とは違うレベルですね。出身地をdis(罵)られてるはずのNasが、つい「サウス・ブロンクス」を口ずさむシーン、よかった!変人っぽいシャンのDJ、マーリー・マールの〈半ザシ〉ワザがあって、たまたまプラグが半分外れかけただけなのに、その音がかっこいい、なんていうことも。 森田 壊れないターンテーブルや音の立ち上がりが正確なマシンを開発した日本の音響製品の技術もちょっと誇らしかったりして。 ノリ ところで、映画の中のNas、なんか寂しい目をしてますよね。虚無的な。 青山、森田 そう、そう。 ノリ 20年前にいたクイーンズブリッジに、今戻って来て。 森田 20年前には、どうして自分がここにいなきゃいけないのかなんて、本人には絶対解ってなかったと思うんだけどね。 青山 育ちはいろいろでも、ラッパーになる人は知性的な人が多いと思う。ノリ君も(笑)。ギャングスタ・ラップの2PACが死亡する前日、Nasとセントラルパークで会ったことや、死後にそのサブバージョンを買い占めた話を聞いて、釈然としなかったんだけど、映画をみてNasは、見えない現実の中から先を見通そうとする知性があったと思えるようになりました。 森田 アメリカ音楽の面白さは、ひとつの国の中に各地域の特性がきわ立ったことだと思う。シカゴはこれ、デトロイトはこう、南部は、ニューヨークは、みたいな。今、それが失われつつあると感じるけど、「illmatic」の時代にはそれがまだあったんだと思う。だから、nobodyknows+もずっと名古屋にいるというわけでは? ノリ どうなんだろう。行く理由がない、からなんだろうか。でも、何でもかんでもトーキョートーキョー、言いやがってというのは、ありましたね(笑)。 付録★オレの一枚〜★アフター「illmatic」 青山推薦「ME AGAINST THE WORLD」2PAC まさにタイトルのまま。彼の素の姿が見えて、せつない。 ノリ推薦「hello nasty」beastie boys 黒人以外がやるHipHopのある種お手本のような感じがするので。 森田推薦「DAILY OPERATION」GANG STARR 1992年、DJプレミアの研ぎすまされたビートの虜になった一枚。 |
2014 11/1(土) 〜11/7(金)
当日券のみ 一 般 1500円 大学生 1400円 中高予 1200円 シニア 1100円 会 員 1200円 学生・シニア会員 1000円 |