●やさしい人 Tonnerre エリック・ロメールを継承するリリカルで繊細な小篇『女っ気なし』『遭難者』によって、ミニシアター系フランス映画の最重要監督に位置づけられるギヨーム・ブラック最新作。前作と同じく俳優ヴァンサン・マケーニュを主人公に、ブルゴーニュ地方の湖畔の街で、静かに一生懸命に現代を生きる人々を真摯に描きだす初長編作。チャーミングな小篇から手に汗握るロマンへと飛躍する傑作だ。 シャブリ・ワインの産地にほど近い街トネール。青年とも中年ともいえない年頃のミュージシャンのマクシム(V・マケーニュ)がパリから帰郷し、愛犬カニバルと暮らす父の家に滞在する。季節はクリスマス……取材をきっかけに地方誌の若い記者メロディ(ソレーヌ・リゴ)と知り合い、恋愛ムードが高まるのだが、メロディには見え隠れするオトコの影が……。ジャック・ ロジエのお気に入り俳優ベルナール・メネズが父役で登場。100分。 公開記念特集 V・マケーニュが北部の港町オルトのちょっぴり太めのシルヴァンを演じるヴァカンス映画の傑作、女っ気なし(2011年 58分)と、遭難者(2009年 25分)の作品集。計83分。 11/29(土)〜12/1(月) 連日11:00〜 <入場料>1200円均一(同日に『やさしい人』をご覧になる方は1000円) 『やさしい人』のクリスマス 平野勇治(支配人) 仁藤由美(スタッフ) 仁藤 今年も「自主フェス」の季節がやってきます。専任スタッフも呼びますか。あ、何かすごく忙しそうですね。そもそもどうして毎年、クリスマス寄りで企画するの? 平野 もともとクリスマスの存在を忘れるために企画されたので…… 仁藤 は? クリスマスの孤独を忘却できると感謝するべき日どりだったわけですか! 平野 今年の冬は、シーズンに照準を合わせた『やさしい人』があるから大丈夫だな。 仁藤 『女っ気なし』に続いての主演ヴァンサン・マケーニュが、新たな人物を演じます。レザンロック誌にでてそうなインディーロックの、構えは山本精一みたいな、リアルなミュージシャンのマクシム役。でパリから、父親が犬と暮らすコージーな実家へ帰郷する。 平野 原題は「トネール」。ブルゴーニュ地方の町。シャブリの原産地の近郊だ。 仁藤 澄んだ環境でウタに専念するはずが。 平野 最初は『女っ気なし』に続いて、冴えない男の恋話かと思って見始めたんだけど、途中から不吉なムード。ハラハラさせられたなぁ。物語の展開も“事件”が起きたりして目が離せないけど、折々に挟まれるセリフや詩の朗読にも注目だね。パリでの音楽活動に疲れたマクシムが、ふと口にする「世間はすぐに僕を忘れ、別の奴を見つける」って言葉も、人間が交換可能なものだと言われたようで、ドキっとした。 仁藤 交換可能ってどんなことでしょうか。 平野 その後のマクシムの恋も、まさに“別の奴”にとって代わられてしまうでしょ。それから考えすぎかもしれないけど、マクシムの行動は、父親の若き日の恋の冒険をリピートしてると言えなくもない。その一方で、マクシムの知人が言う、幼くして死んでしまった人間も何らかの生きた“足跡”を必ず残すという話も印象深い。誰もがかけがえのない個人であることと、個人が交換可能な存在であること。そんな相対する価値観が闘っているような気がした。 仁藤 邦画では各地の助成やフィルムコミッションの協力で映画が制作されてきてるけど、印象的だったのは山下敦弘監督の『リアリズムの宿』『リンダ リンダ リンダ』なんです。地方ロケを感じさせながらも、特定地域への言及ではない。見ている瞬間にむしろ、今つげ義春を読むこと、今ブルーハーツを聴くことの現在性の方にはっと気づかされました。『やさしい人』にも、監督のギヨーム・ブラックがトネールの町から少し身を退いているような距離を感じます。その距離感とは、地方の固有の名を持つ土地に対面した時の、嫌な言葉ですが、生活者としての現実的なためらいです。恥じらいといっていいのかもしれません。ここで話がとびますけど、撮影について。この作品、フレーム内に光源が多いと思いません? 室内撮影もですが、特に、陽が落ちかけていく時間以降の屋外シーンでは、複数の光源が照らしだす奥深い闇のグラデーションが感動的です。光のトーンを精巧に組み立てていくフィルム撮影の賜物ですね。で、ですね、撮影する側のあの現実的な距離感と光源装置がつくる空間の深さには、たぶん最初に見た『遭難者』から、素晴しいけど一体何なんだろうこれ、って感じていたんです。先程の、相対する価値観を聞いて、思い出しました。 ところで父親役のベルナール・メネス。面くらうほどの現役感です。 平野 捕まった息子を心配しながらも、うたた寝してたね(笑)。 この作品には説明的に描かないでも見せてしまうような箇所がたくさんあり、優れた脚本だと思うし、ふと折り込まれる風景描写も素晴らしかった。そんな中、親父がパソコンで見てる80年代のテニスの試合、あれは何なんだろう? 仁藤 人間の容赦のなさについてでしょうか。全仏オープンのファイナル戦ですね。感情が理性に敗北した瞬間。でも、生きることって試合じゃないし、僥倖のように現れた素敵な女の子メロディもその邪悪な元カレも感性の兆すままに主人公を救済します。救いと共に、握った手をすっと放されたような孤独を射る鋭さ、響きます…… 平野 響くと言えば、マクシムが作る歌もいい。現実には手に入らないものを歌うのが“音楽”なのかもと思った。 仁藤 さてクリスマスに話を戻しますけど、豪華な晩餐のお仕置きですが…… 平野 あれは、罰なんだよ。 仁藤 犬じゃなくて、お父さんからの罰? 平野 カニバルって犬が、薬の実験台にされるんだよね。たしかに罰を与える資格はあるな。でも、ここはやはりコレでいいのでしょう。罰は罰でも天国的な罰です。それこそ、この映画のやさしい人たちにふさわしい。 ※太字は、今回の上映作品です。 |
2014 11/29(土) 〜12/5(金)
12/6(土) 〜12/12(金)
12/13(土) 〜12/18(木)
前売券 ※前売券販売は11/28(金)までです。 一 般 1400円 大学生 1400円 会 員 1200円 当日券 一 般 1700円 大学生 1500円 中高予 1200円 シニア 1100円 会 員 1300円 学生・シニア会員 1000円 |
監督・脚本 ギヨーム・ブラック
脚本 エレーヌ・リュオ
脚本協力 カトリーヌ・パイエ
助監督 ギレーム・アメラン
撮影 トム・アラリ
編集 ダミアン・マイストラジ
音楽 ロヴール
音響 エマニュエル・ボナ、ジュリアン・ロワ、ヴァンサン・ヴェルドゥ
美術 エレナ・システルヌ
衣装 サンドラ・ベナール、エマニュエル・パストル
製作管理 オリヴィエ・ゲルボワ、セルジュ・カトワール
制作担当 フィリップ・ビュショ
ポストプロダクションマネージャー ウジェニ・ドゥプリュ
製作 アリス・ジラール
出演 ヴァンサン・マケーニュ、 ソレーヌ・リゴ、 ベルナール・メネズ、 ジョナ・ブロケ、 エルヴェ・ダンプ、 マリ=アンヌ・ゲラン、 他
2013年 100分