「イスラーム映画祭」 藤本高之さんに聞く
──藤本さんは、「イスラーム映画祭」を、お一人で企画し、映画館と共催の形で開催しておられます。企画された経緯は?
元々はアップリンクのワークショップに参加していて、そのときの仲間と2010年から「トーキョー ノーザンライツ フェスティバル」という映画祭を企画していました。そこでノウハウを身につけたのですが、その時、もし自分で一から企画をやるとしたら、イスラームの国で作られた映画を中心にしたものをと思っていました。
遡ると、20代のときにアジアや欧州を巡る旅をしました。そのとき特に印象に残ったのがイスラーム教徒の多い国でした。ところが帰国した後、2011年にニューヨークで同時多発テロが起こります。ニュースなどで報道されるイスラームのイメージは、僕が旅先で出会った人々の印象とはかけ離れたものでした。彼らの本当の生活や考え方を知ってほしいという思いが、きっかけのひとつです。またアッバス・キアロスタミの作品をはじめ中東の映画が好きだったということも大きいですね。
──では、1本ずつ見どころなど教えて頂けますか?
まずは『神に誓って』。これはパキスタン映画で、同国とインドで大ヒットした作品です。過激な原理主義に走る人々と、欧米の反イスラームプロパガンダの両方に対して「それはちがう」とアンチテーゼを提起していて、しかも大エンターテインメントとして見せるところが、すごい。この映画のせいで、監督は命を狙われて、国外に3度逃亡したと聞いていますが、それだけ強い思いで作られた作品と言えます。
『私たちはどこに行くの?』はレバノンの小村が舞台です。レバノンは、キリスト教、イスラーム教の複数の宗派が各地に分散するモザイク国家と言われています。この村の男たちは、ムスリムとクリスチャンが事あるごとに対立しているのですが、女たちは平和な生活を守ろうと共闘する。彼女たちの行動が痛快で、本当に楽しい映画です。
『敷物と掛布』は“アラブの春”を扱っています。革命の中心地ではなく、その周辺地区に光を当てた、クオリティの高いドラマです。“敷物と掛布”というのは寝具のことですね。安心して眠る状況を手に入れられない人々がいる。革命は、そういう人たちのためのものでは? という監督の声が聞こえてきます。
『泥の鳥』は、バングラデシュ映画です。バングラデシュというと援助されるだけの貧しい国という印象かもしれません。でも、この映画を見れば、いかに芸術性の高い国か分かって頂けるでしょう。ベンガル地方に伝わるバウル音楽がテーマとも深く関わっていて、見どころ、聴きどころです。
『蝶と花』と『改宗』はタイ映画です。タイというと仏教国というイメージがありますが、南部にはムスリムが多く暮らす地域があります。2本ともそうした地域を舞台にしています。『蝶と花』は、闇の仕事を通じて成長する少年の物語で、個人的には今回一番肩入れしている作品です。『改宗』は、結婚相手がムスリムなので、仏教徒からイスラーム教徒に改宗する女性を描いたドキュメンタリーです。“改宗”がテーマではあるのですが、いろいろな困難の原因は、実はこの旦那の性格にあるんじゃないかと思えるところもあって(笑)、そのあたりも面白い作品です。
『バーバ・アジーズ』。これはアラビアンナイト風の御伽噺で、もう見ているだけで楽しい。映画の完成後に地震で倒壊したイランの要塞都市・バム遺跡で撮影されたシーンがあって、その映像は貴重ですし、とても美しいです。
『マリアの息子』はイラン映画です。ムスリムの少年とカトリックの老神父の交流を描いていて、宗教を超えた関係に心が洗われます。映画には、現実を超えた理想を描いてほしいと思っているのですが、これはその典型です。
『ミスター&ミセス・アイヤル』はインド映画。ここにも作り手の理想が垣間見えます。最上級のカーストにいる女性が、ムスリムの男とバスに乗り合わせる。そこに殺気だったヒンドゥー教徒たちが乗り込んできてムスリムを捕らえていく。主人公の女は、どう行動するか?描写は繊細ですし、ラストが素晴らしくて、胸が締めつけられます。
──どの作品にも見どころあり! ですね。
はい。今、世界は分断されていく方向にあるように思います。先程も言いましたように、映画は理想を描くものだと思っているので、人と人が分かり合い、融和していくことをテーマにした作品を集めたつもりです。あとは、映画を見ることで、その国を旅するように楽しんで頂ければ!
(2017年1月4日 取材・構成=編集部)