『きみの鳥はうたえる』 三宅唱監督に聞く!

——佐藤泰志さんの小説では、『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)『そこのみにて光り輝く』(呉美保監督)『オーバー・フェンス』(山下敦弘監督)に続いての映画化になりますね。

 この時世に映画館が街の人たちと一緒に映画を作るという意義深いプロジェクトの仲間に加えてもらえたことがとても光栄なことです。ふたりの男とひとりの女の、小さいけれどとても豊かなストーリーから、生きる喜びや恋する時間の幸せを、清々しい時間としてポジティヴに描きたいと思いました。

——脚本は、プロデューサーの松井宏さんと共同で書かれています。

 トークイベントでもふたりで話す時でも同じなんですが、どちらが主導するということもなく、サッカーのポジションでいうとダブルボランチ的な関係で、全体を見渡しながら、ふたりでバランスをとる感じです。あえていうなら、僕がシナリオの構造や何気ないやりとりの部分を担っていて、物語全体や人生を捉えるような印象的なセリフの多くは松井によるものです。彼とは『Playback』からずっと一緒にやっていて、時々緊張感がなくなるくらいの関係だから、「メールぐらいは丁寧な言葉でやり取りしよう」と話したことがあります。

——原作小説とはかなり設定を変えていますね。

 舞台を東京から函館に変えることはオファーを頂いた時点で決まっていました。そして、時代も現代に置き換えました。かつての時代そのものを再現するのは予算がかかることもありますが、主人公たち三人の人間性を変えなければ、作品の本質は変わらない、むしろ小説の普遍性を証明できるのでは、と考えたからです。

——原作とは筋立てそのものも変わっています。

 当初のシナリオはもっとずっと長いものでした。しかし、たまたまクランクイン直前に事情があって撮影そのものが延期になったのです。そこで、ジックリと考え直す時間がもらえました。思い切って、主人公3人の物語に集中しないといけないんじゃないかと思い直しました。

——原作小説からの大きな変更には反対もあったのではないでしょうか。

 強い反対というよりも戸惑いはありましたが、でも最終的には、柄本佑と染谷将太と石橋静河の3人の素晴らしい俳優の魅力を描くために、限られた撮影時間の全てを彼らに注ぐという試みに、チーム一体となって臨むことができました。

——確かに主役の3人は素晴らしいです。

 柄本佑は、年齢的に3年後にはもうこういった青春映画はできなくなるでしょうし、染谷将太も、この作品の直前が大予算映画の空海役ですから、このスケールの作品に出ること自体が難しくなるはずです。石橋静河もこれからドンドン仕事が増える女優さんですよね。撮影現場のスタッフは全員彼女に惚れてました。いろんな意味で、このタイミングでしか撮ることのできないものになったと思います。

——監督ご自身もほぼ同世代ですね。

 しかも、佐藤泰志さんが「きみの鳥はうたえる」を執筆した時もほぼ同じ年齢です。時代は変わっていますが、世代の感覚を大切にした「今の映画」にすることも念頭に置いていました。

——クラブシーンをはじめ、撮影も美しいです。

 函館は港町特有の光がきれいな町です。いい光の中に立つ3人を撮りたいと強く願いました。昼間のまばゆい光もですし、夜通し遊んだクラブから帰る時の夜明けの路上の光も、撮影と照明のチームが僕の希望を汲んでくれました。クラブの中はもちろん人工的な照明ですが、その流れと繋がっています。そういった技術があった上で、その時にしかない、かけがえのない時間や何かが終わった後の余韻を描いていきたいなと思いました。

——映画の中に、贅沢な時間が流れているように感じます。

 撮影期間は、少し無理を言って長めにしてもらいました。その期間で生まれた関係性の雰囲気が映画にも活かされたと思います。特にラストシーンに至る演技の充実度は、実際に撮影最終日の高揚感が反映しているように思います。

(構成・文責:編集部)