『チョコリエッタ』原作者 大島真寿美さんに聞く
原作者の大島真寿美さんは名古屋在住の小説家です。著作『ピエタ』(ポプラ社)が本屋大賞第三位、本の雑誌増刊「おすすめ文庫王国2015」エンタメ部門第1位、昨年末には『あなたの本当の人生は』(文藝春秋)で直木賞候補作家に選出されました。本紙では映画評論をご執筆頂いていますが、今回は著者顔出しがちょっと苦手な大島さんを大好物のお酒で誘い出した雑談の裏インタビューです。(仁藤)
──2003年の春に発刊された「チョコリエッタ」(角川書店)。そろそろ12年です。
大島 書いたのは2002年。ずーっと前、ずいぶんと昔だよね~。
──普通、年齢や成長と共に12年なんて近いエポックだと感じるものじゃない?
大島 そうか。じゃ最近ってことにしよう。
──大島さんのその唐突に伸縮する時間の感覚って、いつも妙だよ。
大島 こと本に関しては、書いている間に書き尽くして、書き終えたらそれで終わり、と思っているところがあるんです。
──振り向いたりしない? 映画の撮影ロケーション協力は愛知県立昭和高校でしょ。奇しくも出身校だし、懐かしい、とか。
大島 高校生活を書こうと思って書き始めたわけではないし。じつは、高校生を書くことはあっても学内を書いたことって一度もないんです。この作品は、書き下ろしの依頼を頂いたとき、たまたまチョコリエッタという、自分の中に生まれた音の響きを何回も繰り返すうちにふと出てきた「私はチョコリエッタ」という一文から始まって。書きながら物語をみつけて紡いでいったら、たまたま学校の中を書いちゃった。
そういえば、昭和高校のロケの見学に行った時、主人公・知世子役の森川葵ちゃんの制服姿にキュン! として、「デザイン、私の頃とは変わったんだ。カワイイですねー」と騒いでたら、じつは全く変わっていなくて、着る人によって、こうも違ってみえるのかとオドロキでした。
──知世子と同じで映画研究会だった?
大島 生徒会機関誌「双樹」を編集してた。これは、今も続いていているそうです。名古屋の自主製作映画監督、大原重光くんもうろちょろ顔を出したりしてたよ。
──じゃあ、映研部員役のナイスガイ三橋くん(岡山天音)のモデルは……
大島 モデルじゃないけど、存在は近いかも。大原くん、また映画撮って欲しいな。
──悲願ッす。高校時代もあんな感じ?
大島 基本的には同じだけど、狂おしいような躁状態みたいな雰囲気を感じさせてた。いつも妄想中で、妄想の中でずっと映画を創り続けてるような。
──では、大島さんが映画制作に興味を持ち始めたのはいつ頃からなの?
大島 大学生になって、劇団・少年王者舘の長谷川久さんや、河原木宏尚さんたちの愛知医大映研の作品を見た頃からだと思う。その上映会の券も確か、大原くんから買ったはず。あの頃は自主製作映画の上映会がさかんに開かれていたんです。
──風間志織監督とは旧知ですよね。
大島 そうです。今、思い出したけど、映画を観た時、知世子と正宗(菅田将暉)が愛犬ジュリエッタの小屋を葬るシーンに、別の小説「夕暮れカメラ」の細部と重なるところがあって、風間さん、あの小説、読んでくれてたのかな? と不思議に思ったんでした。それとも偶然? どっちなのか、今度きいてみたい。不思議といえば、この映画の誕生にまつわることでもちょっと不思議なことが。
風間さんと神楽坂で飲んでいた時に、そもそもこの小説をぜひ映画にしたいといっていた映画配給宣伝の仕事をしている熊谷さんがそこにやってきて(共通の知り合いだと判明し、即座に呼び出した。すると即座にやってきた。笑)、熊ちゃんが「チョコリエッタを映画にした~い!」と叫び、風間さんが「それなら、わたしが撮りま~す」と手を挙げ……。その瞬間、店内のライトが消え、真っ暗になったんです。
ま、ようするに、後ろの席のお客さんのサプライズ、ハッピーバースディのお祝いだったんですが、なんと! そのお祝いをされている方がチヨコさんだったの! ハッピーバースディ・トゥ・チヨコ~と歌声がきこえてきて! って、こんな偶然があるでしょうか。
──チョコリエッタの「チヨコ」!
大島 そうそう。そのチヨコを演じた森川葵ちゃんが、風間さんの若い頃になんとなく似てるっていうのも、わたしはちょっと不思議な気持ちがしたものでした☆(本人には否定されましたが)。
──原作者から見た映画作品は?
大島 小説の核というか、空気が見事に視覚化されていて、さすがだな~、と思いました。これって、難しいことだよね。