●青空どろぼう 戸塚ヨットスクールの現在を描いて大きな反響を呼んだ『平成ジレンマ』。それに続く東海テレビ放送制作のドキュメンタリー映画が早くも登場する。今回は、三重県四日市市の公害がテーマ。その歴史と現在を、克明に、シャープに描き出す。 日本四大公害のひとつ四日市ぜんそくは、1960年に発生し、多くの住民を苦しめたが、今では過去の出来事としてふり返られる機会も少ない。しかし、それは本当に終ったことなのだろうか? 映画は、公害記録人の澤井余志郎と、元原告の野田之一を中心に、人間と環境の、あるべき姿を問いかける。94分。 東海テレビドキュメンタリー特集の解説 『青空どろぼう』 阿武野勝彦監督に聞く ──この作品を作られたきっかけは? 3年前に東海テレビ開局50周年を記念して、昔のドキュメンタリーの現場を再訪する「ドキュメンタリーの旅」というシリーズを作りました。その中に四日市公害の作品があって、吉岡忍さんと取材をしました。そのとき案内をしてくれたのが、澤井余志郎さんでした。しかし、澤井さんがどんな人なのか知らないまま、公害裁判の原告だった野田之一さんの家に行きました。そこで野田さんが「学者や政治家はわしらを利用して偉くなった。裏切らなかったのは、澤井さんだけや」野田さんのだみ声が家の外に響いていました。その時、中庭で澤井さんが涙ぐんでいたんです。その一瞬に「この人はどういう人なんだろう」と興味を持ちました。調べてみると、四日市公害を追い続け、膨大な記録を残している人だという輪郭が分かり、澤井さんのドキュメンタリーを作ろうと思ったんです。 ──記録をして、それを人に伝えるという意味で、澤井さんもジャーナリストですね。東海テレビという報道の現場にいる阿武野さんから、どのように見えましたか? テレビの仕事は、バチバチとチャンネルを換えるように題材を次々に変えていくところがあります。一つのことを見つめ続けるというのが苦手な世界です。翻って澤井さんの活動は、組織に頼ることなく、継続性そのものです。重層する記録の山に、ただただ凄い、尊敬的驚愕という感じでした。今この時に、出会えたのは、とても素晴らしいことだと思いました。 ──映画は、澤井さんを主軸に進みますが、同時に、多くの人々にとって終ったことになっている四日市公害が、実は終っていないのでは? という展開になっていきます。 私も、四日市公害は過去の出来事だと思っていました。ただ澤井さんの生き様を映像記録に残したいという思いだけだったんです。しかし、撮影しているうちに、モクモクと疑問が湧いてきたんです。1987年の「公害健康被害補償法」の改正の読み直しがきっかけです。この法改正で公害病患者の認定が打ち切られましたが、その意味は、法律一本で、四日市には公害患者は発生しないということでした。しかし、制度の有無と患者の発生がイコールになるのは、おかしくないか? 撮影も最終段階でしたが、行政などにデータの提示を求めても、法改正後に何の調査もされてないため、地域の実態が全く不明なのです。これは歩いて調べるしかない。それで共同監督の鈴木祐司君が磯津地区170軒を訪ね歩きました。そうしたら、制度廃止後に発病した肺気腫やぜんそくの住民がたくさんいて、苦しんでいるという事実が浮上したんです。 ──阿武野さんたちが、澤井さんの仕事を引き継いでいるようにも見えました。 私達は長年にわたって余りにも多くのことを御高齢の澤井さんに押しつけてきたと思いました。そうして、記録の大先輩に共鳴して、ジャーナリズムの原点に立ち戻されたのかもしれませんね。 ──もう一人の主人公とも言える野田之一さんも、澤井さんの「静」に対して「動」のキャラクターで、素敵でした。 野田さんは、裁判に勝訴した時に、支援者に「この判決で四日市に青空が戻ったわけではない。本当の青空が戻った時に、ありがとうと言いたい」と強烈なメッセージをしました。しかし、野田さんの考え方の底流には、対立ではない別の大きなものを感じるんです。企業対患者、権力対個人という構図に落し込まない、野太いヒューマニズムを感じるんです。公害の渦中で育んできた野田さん独自の思想を、澤井さんもとても大切にしていらっしゃると思います。 ──ところで、3月11日の震災以降、この作品は新たな価値を持ったように思います。国策、環境破壊、大企業と住民の問題などは、現在の状況と重なるところが多い。 4月にお会いした時、野田さんは、福島のことばかり話していました。元漁師ですから「海が汚れる」「水揚げができなくなる」汚染と風評被害を心配をしていました。四日市から福島が見えているんですね。話を聞きながら、3.11の前に制作したんですが『青空どろぼう』にも福島が盛り込まれていると思いました。四日市を克服できない私達が、福島をどうしたら克服できるのか。そして、福島を見つめ続けることの意味……。福島を考えるヒントが『青空どろぼう』にあると思います。 それから、澤井さんたちを見ていると、絶望の中に、人間の力を感じるんです。過去を丹念になぞり、現在を誠実に記録し、未来を描く上で、ある種の道標のようなものとして、この映画を見てほしいですね。 (2011年6月23日 構成=編集部) |
2011 7/16(土)
上映後トークあり。 ゲスト: 澤井余志郎、 野田之一、 阿武野勝彦 7/17(日) 〜7/22(金)
7/23(土) 〜7/29(金)
7/30(土)以降の上映時間は直接お問い合わせください。 前売券 ※前売券販売は7/15(金)までです。 一 般 1400円 大学生 1400円 会 員 1200円 当日券 一 般 1700円 大学生 1500円 シニア 1000円 中高予 1200円 会 員 1300円 |
共同監督・プロデューサー 阿武野勝彦
共同監督 鈴木祐司
音楽 本多俊之
音楽プロデューサー 岡田こずえ
撮影 塩屋久夫
音声・水中撮影 森恒次郎
水中撮影 岩井彰彦、神辺康弘
TK 河合舞
効果 柴田勇也
ミキシング 澤田弘基
CG 小清水幹也
題字 山本史鳳
アソシエイトプロデューサー 安田俊之
編集 奥田繁
ナレーション: 宮本信子
2010年 94分