白夜のタンゴ

●白夜のタンゴ Mittosommernachtstango 映画監督アキ・カウリスマキが怒りを抑えて語りかける〜タンゴの起源はアルゼンチンでもウルグアイでもなく、ここフィンランドであり、世界はその事実を忘れてしまった、と。それをきいた3人のミュージシャン、チーノ(歌)、パブロ(バンドネオン)、ディピ(ギター)は、活動拠点であり疲弊した美女のように21世紀を漂う都市ブエノスアイレスから、森と水の国フィンランドへ旅立つ。緩やかなロードムーヴィが真逆の風土や国民性に触れ、様々な音楽セッションによってタンゴの感情表現の真髄へ誘い込んでいく魅力的なドキュメンタリー映画。『マッチ工場の少女』にも出演したタンゴの大スター、レイヨ・タイパレとの共演も果たす。83分。



『白夜のタンゴ』公開記念イベント
〜音楽が結ぶフィンランドとアルゼンチンの意外な関係?!〜
   2015年 1/18(日) 15:00〜
   ゲスト: 西村秀人 (ラテンアメリカ音楽研究家)
   谷本雅世 (ラテンアメリカ文化音楽紹介)
  会場: cafe*Bar つるのり  tel.052-732-5799
名古屋市千種区今池1-6-13 今池スタービル1F
(名古屋シネマテークの下の階です。)
  入場料:500円 ※別途、カフェでのご飲食料金が必要です。
  ご予約・お問い合わせ(下記のどちらかへお願いいたします。)
  (谷本)  papitamusica@gmail.com   携帯:090-3727-7876
  (名古屋シネマテーク)  052-733-3959



『白夜のタンゴ』にみる、タンゴという世界文化のかたち
 西村秀人(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)


 今から140年ほど前、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで生まれたダンス音楽”タンゴ”は1910年代前半から世界に広がり始め、1920年代には欧米で大流行した。ブームの後、ヨーロッパではコンチネンタル・タンゴと呼ばれるムーディーなスタイルが登場、また社交ダンスの1ジャンルとしても定着したが、一般の人々の間での人気は1960年代以降衰えていった。フィンランドにもタンゴは1913年に到達、長い土着化の過程を経て、ブームが去った後も、フィンランド語で歌われ踊られる独自の「フィンランド・タンゴ」となって国民に親しまれ、「もともとタンゴはフィンランドで生まれたものだ」と思う人々が出てくるほどしっかり根付いたのだった。
 しかしフィンランド・タンゴはローカルに流通してきたため、国際的にその存在が知られてきたのはここ20年ほどだと言ってよい。1980年代半ばにブロードウェイでアルゼンチン・タンゴのダンス・ショウ「タンゴ・アルゼンチーノ」が大ヒットし、さらに1990年代半ばにアルゼンチン現代タンゴの革命家アストル・ピアソラの音楽がクラシックの音楽家を中心に再評価されていく過程で、世界的にタンゴという音楽とそのルーツに注目が集まり、ピアソラ作品を演奏するフィンランドのミュージシャンも登場、その過程で逆にフィンランドに独自の形で残ってきたタンゴの存在も知られるようになったのだと思う。
 なぜその時まで知られる機会が少なかったのか。その原因はこの映画の中にも十分あらわれている。フィンランド人は万事控えめで、「自分たちのタンゴ」について国外でアピールするような性格ではないのだ。一方、アルゼンチン人は誰彼かまわずしゃべりかけるのが大好きで、話の内容よりもただしゃべり続けることが最終目的かと思われるような、フィンランド人とは対極にある性格の持ち主といえる。アルゼンチン国民は様々なヨーロッパ地域からやってきた移民がほとんど。自分が何を考えているかちゃんと主張しないと伝わらなかった歴史が彼らの性格を形成したのだろう。アルゼンチン人が「フィンランドにタンゴの起源がある」と聞いて確かめずにはいられないのは当然だろう。そうした真逆の文化に属する音楽家たちの出会いは感動的というよりはむしろ微笑ましい。コミュニケーション・スタイルが異なる上に、使う言語は互いの母語ではない英語。会話のキャッチボールは微妙にかみ合わず、しかし共通言語としてそこに介在するタンゴ。
 アルゼンチンの旅人は、たびたびの来日で日本のタンゴ・ファンにはおなじみのパブロ・グレコ(バンドネオン)、ワルテル・チノ・ラボルデ(歌)、ディエゴ・ディピ・クイッコ(ギター)の3人。チノは俳優としても活躍、ディピとのコンビは長く、アルバムも3枚製作している。パブロは親子3代プロのバンドネオン奏者という筋金入りのミュージシャン。フィンランド側にもユニークな音楽家がたくさん登場するが、一番の大物は最後に登場する74歳のベテランの歌手レイヨ・タイパーレ。本作では俳優として出演しているアキ・カウリスマキの監督作品にも出演、国際タンゴ・フェスティバルにも参加した経験を持つフィンランドを代表するタンゴ歌手だ。彼の最大のヒット曲が映画でも歌われる「サトゥマー」(夢の国)。フィンランド・タンゴ界最大の作曲家の一人、ウント・モノネンの1955年の作品で、1962年にタイパーレの歌でリヴァイヴァルしフィンランド・タンゴの最有名曲となった。「海のはるかかなたにある夢の国を想いながらも、私は鳥のように飛んでいくことは出来ない、せめて私の歌だけでも夢の国に届いてほしい」という歌詞を作った作者モノネンは多くの名曲を残しながらも、アルコール中毒を患い、37歳の若さで自ら命を絶ってしまった。女性にふられた悲しみをカッコつけて歌う、あるいはタンゴの誇りを高らかに歌うアルゼンチン・タンゴとは異なり、フィンランド・タンゴには壮大な自然の中ではぐくまれた孤独への思いが背景にある。モノネンの短い人生はフィンランド・タンゴそのものだったともいえるだろう。(映画後半で女性歌手が歌う「海上の星 Tähdet meren yllä」 もモノネンの作品である)
 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスとフィンランドの首都ヘルシンキの直線距離はおよそ13000キロ、国土も気候も自然も人種も国民性も食べ物も全く異なる2つの地域で、音楽や踊り方が変化はしても、双方に歴史と共に存在する「タンゴ」がもたらした不思議な旅の記録である。


2015
1/17(土)
〜1/23(金)

13:00

2015
1/24(金)
〜1/30(金)

18:30

前売券
※前売券販売は1/16(月)までです。
一 般 1400円
大学生 1400円
会 員 1200円
当日券
一 般 1700円
大学生 1500円
中高予 1200円
シニア 1100円
会 員 1300円
学生・シニア会員 1000円

当館窓口で前売券をお求めの方に、フィンランドバスソーク(提供:株式会社チャーリ—)をプレゼント中(数量限定)。